食べやすい狂気 | おはしょり稽古

食べやすい狂気

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「性能のよい~シェイクスピア『オセロー』より」

作・演出:田口アヤコ

@王子小劇場


劇場の長い辺をいっぱいに使った長方形の舞台に、

白い毛の編み物が流れていた。


『オセロー』の舞台は、ベネチア(ベニス)なのらしい。

イタリアの都市ベネチアは「水の都」の異名をとるほど運河の多い街で、

今公演『性能のよい』の舞台も

ベネチアに流れる運河を思わせる形にしてあった。


両側に河川敷のように作られた客席から舞台を見下ろしていると、

客入れの音楽がやんで芝居が始まる。


原作の『オセロー』はもっと複雑な話なんだろうけど、

『性能のよい』でクローズアップされているのは、


「オセローを密かに憎んでいる部下、イアーゴーの画策にはまったオセローが、

部下キャッシオと妻の浮気を疑い、

嫉妬に憑かれたあげく妻のデズデモーナを殺してしまう」


という所だけだ、と言っていい。

これ以外の「オセロー」の粗筋は、語りなどによって極力削られている。

作・演出の田口アヤコさんは、

多分、イアーゴーとかキャッシオとかはどうでもよかったんだろう。


『性能のよい』でメインに据えられているのは、

「相思相愛の状態が壊れる不安」

「恋人を失う不安」

である。「怖いぐらいに幸せ」ってやつですね。


それをより強く表現するために、

『オセロー』の途中に

恋人たちを描いた短いシーンがいくつも挿入される。中でも


「しあわせ?」「しあわせ」「こわい?」「こわい」


と問いかけ合う男女のシーンは象徴的だ。

二人は寝転がって、手をつないでいる。幸せだけど、怖い。

「結婚=相手を殺せる」

という内容のセリフも出てきたりして、非常に一貫性があった。


会話から察するに近未来の日本が舞台で(なんと徴兵制度がある)、

そこはご都合主義な印象を受けた。

『オセロー』もヨーロッパの戦時中が舞台だから絡めたんだろうけど、

状況は現代日本なのに

徴兵制度があるのは、やっぱり少し無理やりだ。そうまでしなくても伝わると思う。


『性能のよい』では三人以上の登場人物が会話することが無い。

何人もの人物を役者が演じ分けながら、

いつも一対一で会話している。

ときには二人の役者が一人の人物の台詞を交互に言うこともある。


オセローがデズデモーナを殺す場面は

三組の二人芝居が舞台で同時に演じられていた。


それぞれの組が独自に芝居を作っているから、

あっという間にデズデモーナが死んでしまうところもあれば、

二人が乱闘になっているところもある。

同じセリフが連鎖的に聞こえるところがなかなか面白かった。


力量のある役者陣に台本を渡して自由に芝居をさせて、

それを再構成して作ったんだと思う。

使う題材を欲張りすぎている感も否めないけど、

構成や役者の使い方など、力が安定している芝居だと思った。



(※役者注釈・・・ひょっとこ乱舞の看板役者、伊東佐保さんが出演しています。

          役者のレベルも高かったけど、

          今公演では彼女が一番目立っていました。多分売れると思うから、応援しとこう。)