純和風・怪異譚 | おはしょり稽古

純和風・怪異譚

乞局

「雄日葵(オマワリ)」

作・演出:下西啓正

@王子小劇場


「お巡りさん」と「雄日葵さん」を引っ掛けたのは

なかなかブラックだ。

作品のタイトルでもあるこの架空の花の花言葉は、「許せない奴がいる」。

人に向かって「オマワリさん」って言うのは


「『このバカ野郎!』っていうか『ファック!』っていうか、」


そんな意味に当たるんだそうである。



雄日葵が群生するのは、日本国内の古都。

(京都のような、しかし京都ではない)とわざわざチラシ等に明記されているのも無理はない、

この古都ではハーフやクォーターの人々を、

侮蔑を込めて「混じり」と呼んでいるのだ。アクセントは、「ま」ね。


それなりに歴史のある雰囲気の料亭で、女将さんが死んだ。

「寝たきりで可哀相だし」と雄日葵の種を食事に混ぜていた従業員2人が、

店の評判が落ちるのを恐れて

死体を荒縄で縛って川に吊るし「貴重な珍味だ」と部下たちには言っておく。


雄日葵の種が毒性であるということは直接的には言われないけど、

女将さんの死体を養分にして大量に繁殖した雄日葵

従業員や警察官の体に種を植え付けて育ち、

あたかも女将さんの復讐のように川から這い上がって料亭を覆いに来るというのが

作品の大きな流れになっている。


ここに絡んでくるのが人種差別の問題だ。

作品の舞台となるベトナム居酒屋には、「混じり」が男女一人ずつ働いている。

このうち男性従業員のチャイが、

警察官によって女将殺しの犯人に仕立て上げられるのだ。


晴れて釈放されたチャイの言葉少なな様子と

短い回想シーンが、

署に連行された後に何があったか端的に示していた。


ラストで雄日葵に体を乗っ取られていくのは、

優しく振舞いつつもチャイに無理を言っていた上司2人と、

チャイを連行した警察官である。

客席に背を向けたチャイの目の前で3人が苦しむシーンはとても象徴的だ。


これは、

チャイにとっての「許せない奴」らが

報復される作品でもあったんである。


いつもながら、不快な人々が巧みに描かれている。

対して、非現実的なホラーの部分は洗練されて、生理的な不快感はあまり感じない。

上手い具合にバランスがとれて、

完成度の高い純和風怪異譚になっていた。