リアリティーでクオリティーをキープ
机上風景
「グランデリニア」
作:高木登 演出:古川大輔
@王子小劇場
序盤にこんなシーンがあった。
宏樹が美加と違うテーブルに座って、舞台に置かれた二組のテーブル全部を占領してしまう形になる。
そこに三人組が新たに来るが、宏樹はどかない。しぶしぶ三人は、テーブルの一つに座る。
美加がたまりかねて宏樹と同じテーブルに移ると、
「じゃあこっちに座っちゃおー!」と、大声で言いながら宏樹が反対側のテーブルに移動する。
横に並べられた、二組の、白い四人がけの丸テーブル。
波の音が絶えず聞こえるホテルの下のスペースは、本来とても快適な場所なのに違いない。
利用者のことを考えて使いやすいように設置された物なのに、
このシーンの中では窮屈なものに見える。四人掛けですよ、五人じゃだめですよ、という制約が見える。
話の構造だけ見ると、ものすごく単純な作品だ。
最初に三組のカップルが出てくる。カップルの男は三人とも怒鳴る。相手の女は男に迷惑している。
そこに、「そんなにイヤなら殺してあげますよ」と一人の男がやってくる。
この、「殺してあげますよ」と言う人を人間じゃなくて死神とか悪魔に変えると、
中学校の演劇大会の定番ネタそのままになる。
創作と聞いて『死を司る者』を登場させる中学生の多いこと多いこと。一様に口調が礼儀正しいところまで、「グランデリニア」の殺人鬼と同じだ。
だから、決して奇抜な構成とかアイディアでは勝負していないのだ。
すごくありがちな設定を、人物描写の細かさと役者の演技力でプロの芝居に仕立てている。
描写力だけでもここまで面白くなるというのが、新鮮だった。
作品中に登場する男の登場人物は、みんな大人の皮をかぶった子供だ。
突然怒鳴るか、自分が王様でないとふて腐れる。
でも、そういう男から離れられない女も、他人の前で屁理屈をこねる女も不安定なところがある。
モラリストな印象を受ける女性もいたが、
話が進むにつれて「単にモラリストなだけ」なことが分かってくる。
最前列に座ると、目線が役者と同じだからリアルに怖い。
殺人を計画している男をモラリストの女性が糾弾するところなんか、空気がぷつっと切れそうな感じがする。
怒鳴るポイントをちょっとずらすだけで狂気が演出できるんだななんて思うのは、
今こうやって書いてるからだ。
見てるときはただ怖かった。やめとけよ、って舞台に割って入りたくなった。
みんな心に余裕が無いので、行き詰まってわけわかんないことを言ったりする。
だから舞台を囲む観客席からは、たびたび笑いも起こった。
まだこの作品を見て笑えるほどの人生経験を、私は積んでいない。