シチュエーション・コメディで充分いけるのにぃ | おはしょり稽古

シチュエーション・コメディで充分いけるのにぃ

ブラジル

「おしっこのはなし」

作・演出:ブラジリィー・アン・山田

@新宿サンモールスタジオ


ギャグのセンスがずば抜けている劇団である。

コント芝居やコメディーをやる劇団は沢山あるけど、ブラジルの芝居を見ているときほどは笑えない。

前々回の「美しい人妻」に続いて二回目の観劇だが、

今回も結構笑ってしまった。


余命三ヶ月と宣告された美月と、

事故で恋人の記憶だけを失くしてしまった中川と、

逆に昔好きだった人のこと以外の記憶を失くしてしまった(新たに記憶することもできない)患者が、

病院に入院している。

見舞いに来る人達と、看護婦と医者が登場人物だ。


看護婦は完全にギャグ担当。

見舞いに来る人にも、明らかにギャグ狙いの登場人物と分かるような人がいる。


物語の終盤で美月は死に、

その後に膀胱炎で入院した美月の恋人が、美月の幻を見るところで話は終わる。

大笑いさせつつも最後はしんみりさせる、手堅いドラマ・・・かな?


見ているときはそれなりに納得させるだけのパワーを感じたけど、

結構放置された台詞が多い。

一番不思議なのは、

美月が本当に死ぬ前に、死んだふりをするシーンだ。

死んだと見せて起き上がった美月は、こう言う。


「あたしね、病気のふりしてたの。」


この台詞を言った直後に美月は本当に死ぬ。真意が永遠に分からない言葉を残して

・・・と言うと名シーンに聞こえるかもしれない。



でもさ。


この台詞、横で医者が聞いてるのね。


そんで、美月と医者を見てると、どうも医者は仮病と知ってて美月を入院させてたらしいのよ。


どーゆーこっちゃね、それ。

そこは本当に病院かね、先生。


この「ふりをしてた」という台詞は話の随所に出てくる。記憶喪失になってしまった中川が、

「みんな、本当は大事なこと以外は忘れちゃってるんだよ。」

「俺、記憶喪失の振りしてた。」                   と美月に言ったりしている。


意味深だ、とは思う。言わんとすることも分からなくはない。でも芝居の中で上手く機能しているようには見えない。

「おしっこのはなし」と言いながら、

おしっこの話が今ひとつ話の軸になってなかったことと関係あるのかもしれない。

チラシに書いてあった文章と、芝居の内容がかなり違ってたし。


死ぬ前に好きな人のおしっこを飲みたい、という美月の不思議な願いが

宙ぶらりんになっている。

実際に舞台上で男優が紙コップに尿をとらされる、っていうこと以外は、あまり面白みが無かった。

その後のギャグシーンで使われてはいたけど、

同じ場面で美月が死んじゃうのでおしっこの話なんかしてるどころではなくなってしまう。


反対側から見たら違ったのだろうか。

実はこの芝居、劇場の中央に細長く舞台が設置されていて、

観客は両側から舞台を挟む形で見られるようになっていたのだ。

美月の死に顔の枕元に、

紙コップに入れられた尿が置いてあるのを見ていたら、少し印象が違ったかもしれない。


人数の多い芝居を上手くまとめてはいたけど、芝居の傾向を盛り込みすぎた感じ。

結構、脚本家さん迷ったのかもしれない。

気力があったら、練り直して再演してほしい気がする。